黒王子の溺愛
「いかがでしたか?」
柾樹が出勤してきたところ、倉田が社長室を訪ねてきた。

「良かった。」
淡々と柾樹は返す。

今日も、お弁当持参だ。
倉田は素早くチェックし、相変わらず幸せなのだな、と安心する。

「そうですか。それは良かったです。」
「あの物件、問題ないと思う。本当にM&Aに出しているなら買う。」

「それは先方も喜ばれるでしょう。」
柾樹にしてみれば、あのホテルは美桜との思い出の場所なのだ。

その、美桜との思い出の場所がなくなるかもしれない、などということは、今の柾樹には考えられない。

まぁ、それを俺のものにする、というのもありだな。

「美桜さんはいかがでしたか?」
「喜んでいたな。」

「そうですか。それは良かったです。」
「上手くやってくれ。」
「はい。」

郊外に良いホテルを作ったのはいいが、こだわり過ぎて、初期費用に投資しすぎて、宣伝費用まで、行き届かず、困っている、と倉田は友人の知り合いから、相談を受けていた。

どうしようもないようなところなら、そのまま、残念だな、と流していただろう。

けれど、資料を確認して、そのこだわりの細かさに驚いた。
そのこだわりは、おそらく、黒澤の気に入るところだろうと思っていた。

案の定、その通りで、グループ化されれば、宣伝費は多くは必要とはしないはずなので、買収だけでも、いい宣伝にはなるはずだ。
これで、持ち直すだろう。

柾樹にも、いい息抜きになったようだし、少しプライベートを充実させることの楽しさを知ってくれたのならいい。

美桜と一緒になってからの柾樹は、今までとは全く違ってきていた。
今までは、機械的に融通の効かないところがあった。

正確無比で間違いを起こさない。
情に流されず、判断は正確。

それはそれで、頼りにはなる。

けれど、今は少し、柔らかくなった。
そして、人の意見を聞くようになった。

それは、そばにいる美桜のおかげなのだろう、と思う。

人として、魅力も深みも増したと感じる。

これからも、美桜と仲良く、そして、見た目だけではない、魅力のある経営者になっていって欲しいのだ。



       。.:*・END。.:*・゜
< 85 / 86 >

この作品をシェア

pagetop