旦那様、離婚はいつにしましょうか~御曹司と清く正しい契約結婚~
 失礼にならないように取り繕わなくては。

 今日のお見合いは、私が勤める『大東(だいとう)不動産』事業企画部の上司で御曹司でもある相馬響(そうまひびき)さんになかば強引に決められたもの。

 私はお断りする気満々なので、お相手がどんな人なのかすら聞いていない。

 ただ、酔って相馬さんに迷惑をかけたので、彼が頼まれているお見合いに顔を出すことで借りを返したいだけだ。


「七瀬です」
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」


 先ほどの女性に続き私も名前を言うと、指先まで神経が行き届いた美しい所作の仲居さんが中に促してくれた。


 ピカピカに磨かれた趣のある茶褐色の廊下を奥へと歩いていく。

 着物なんて着慣れないので苦しくてたまらないが、少しの間の辛抱だ。

 適当に相槌(あいづち)を打って笑顔で座っていれば終わる。
 今日のお代は相手持ちだそうなので、おいしい料理を楽しもう。

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