HOME〜私と家族〜
「結局買わねえのかよ」
「だって欲しいのはなかったし」
「ふうん」

お会計を済ませて本屋を出たら、後ろから突然声をかけられた。

「沙穂?」
「えっ?」

振り返ると、タクより少し背の高い男の子。

「知り合いか?」

タクも不思議そうに彼と私を見比べている。

「えっと…」
「あれ、覚えてない?つってもまあもう5年以上前だし仕方ないか」
「もしかして…大吾?」

その話し方と、少し眉を下げた顔に、微かな記憶が蘇った。

「おーそう!…て、ごめん。邪魔した?」

大吾はチラッとタクの方を見て、一歩引いた。

「いや。ちょうど俺も一人で寄りたいところがあるから、しばらく話してたら?」

タクはそう言うと、30分後に戻ると言ってエスカレーターに向かった。
…ワガママ聞いて欲しいって一緒に来たのに、一人で寄りたいところがあるってどういうこと?
なんだか腑に落ちないまま、近くのベンチに座る。

「小学校卒業依頼だな。元気か?」
「うん。大吾は?まだ野球続けてるの?」

大吾とは小学校の時の同級生。
私がすぐに分からなかったのは、当時野球をやってて坊主頭だったから。

「おう。つってもマネージャーだけどな。中学の時怪我して、選手はやめたんだ」
「そっか。でも野球には関わってるんだね」
「まあな。やっぱ野球好きだし」

野球にまっすぐな気持ちは、どうやら変わってないみたいだ。

「で。さっきの人は?彼氏?」
「まさか。ちょっと事情があって、一緒に暮らしてるの」
「へえ、一緒に?」
「変でしょ。私も戸惑ってばかりなんだけどね」
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