泡沫〜罪への代償〜
第七章

いつでも一緒(前編)


結城ナオトがミコに案内された個室入ると、1人掛けのソファにそれぞれ座っている、柳アサコと清水アカリがナオトの方へ視線を向けた。

「やっぱりナオトだったのね」

アカリが言った。
ナオトで良かったという表情をしている。安心したように椅子に深く座り直した。

「あ、ナオト。久しぶりだね、こんな場所は言うのは変だけれど……」

アサコは困ったような笑顔を向けている。

「おう、久々。……って、やっぱり変だな」

ナオトもぎこちない挨拶をした。

「結城さん、こちらの椅子へどうぞ」

ミコがナオトを空いている椅子に案内をする。

1人掛けのソファが4個。
丸いテーブルを囲むように並んでいる。

4人分。
やっぱり俺たちは「あの事」で呼ばれたのだとナオトは確信して、言われた椅子に座った。

「今、お菓子と飲み物をご用意しますね。人数が多いのでパーティー風なお菓子なんかいいですよねー。カラオケによくあるような。みんなで食べると楽しいですね!すぐにお持ちしますのでお待ちくださいね」

ミコが笑顔で言い、そして部屋を出ていく様子を3人で見る。

3人とも思っている。

楽しい?正気なのか?と。

しばらく誰も口を開かない。



アカリは肘掛に寄りかかり頬杖をついている。
ナオトは足を組み、肩が凝るのか首を回している。
膝の上に置いた両手を握ったり離したりしているアサコが、ゴクンと唾を飲み込んで思い切ったように口を開いた。


「みんな、わかってるよね?私たちがここにいる理由……」

アサコの言葉に2人が視線を向けた。

「おい、アサコは知っていたか?ホームレス連続暴行事件ってヤツ。お前はもう地元にいないから知らねえんじゃないの?」

ナオトが言うと、アカリがキっと睨んでいる。

「こっちでもニュースでは流れていたよ。未成年の女の子が犯人の可能性があるって。地元だから驚いてはいたけれど。きっと全国ニュースになっていたんだと思う」

アサコは小さな声で言った。

「その犯人はそこにいるゴリラみたいな力の女だ。驚くよな?まあ、昔っからサンドハッグ相手に鍛えていたから、ゴリラパワーもつくよな。力が余りすぎてホームレスを暴行してるなんて笑っちゃうけれど」

「アンタ!私のことをそんな風に言ってもいいの!?ふざけんな!!どの口が言ってるのよ!!」

ナオトの言葉にアカリは真っ赤な顔をして立ち上がり怒鳴りつける。

「お前、何様のつもりなの?あー、神様だっけ?残念だな、神様はウタカタって男だったな。お前じゃねーよ」

ナオトの挑発に怒りが爆発したアカリが襟首を掴んだ。

「やめようよ!今はそういう話じゃないよ!」

泣きそうな声でアサコが言ったところでドアがノックされる。

「お待たせしましたー……?」

ミコがトレイに山盛りのお菓子と飲み物を持って入ってきた。
そして、ナオトとアカリを見る。

アカリはミコが来たことなんか構わずにナオトの襟首をさらに強く引き上げようとしている。
それに対してナオトは「俺を殺すのか?もう死んでいるのと同じなのに、どうやるんだよ。ゴリラ女」と馬鹿にしたような顔で言った。

アサコがミコに助けを求めるように「ミコさん!」と言う。


ミコはトレイをテーブルに置いて、2人の前に立った。
そしてアカリの腕を引き離す。
腕を掴まれたアカリはそのままミコに投げ飛ばされ、腕の関節を決められた。

「私は格闘技の師範代を三つ持っています。修斗、合気道、極真空手。後はブラジリアン柔術も出来ます。アカリさん、ナオトさん、どちらが相手になりますか?2人でかかってきても構いませんよ?喧嘩がしたいなら私が相手です。どうしますか?」

アカリにしっかりと関節技を決めながらミコが言う。

アカリは痛さに呻いていて、ナオトはポカンとそれを見ている。

そこに開いているドアからウタカタがヒョイと顔を出した。

「あらー?喧嘩はダメだよー。ミコちゃんには2人でかかっていっても敵わないからね。返り討ちにされて、そのまま天国へぶち込まれちゃうよ?結城くん、女性には優しくねって言ったでしょ?キミ達は喧嘩するために集まったワケじゃないでしょー。ちゃんと考えなさいって言ったのに。無駄に時間を使うのはダメですよー」

ウタカタの言葉にミコはアカリから身体を離した。

アカリが腕を押さえながら起き上がるのをアサコが手伝っている。

「ちゃんと考えたら?「あの事」を。4人目が来るまでもう少し時間があるから、しっかり考えましょうね。ミコちゃん行こうか?」

ニッコリ笑ってウタカタが言った。

「健闘を祈りますよ?それでは、後ほど」

そう続けて、軽く手を振りながら部屋を出て行った。

「喧嘩をしていたら、すぐにわかりますよ?皆さんと同じ本を持っていますから。私の力はわかりましたよね?暴力はダメです。ウタカタさんが言った通りに、しっかり話し合って下さい」

ミコもトレイからお菓子やジュースをテーブルに置き、微笑んでからウタカタの後に続いて部屋を出た。


2人が出て行った後、また沈黙になる。


テーブルにはバケットの中に色んなお菓子が山のように入っている。
本当にカラオケのメニューにありそうな感じだ。


「喉乾いたね。ジュース飲もうか?えーと、アカリはオレンジジュースが好きだけれど、アップルジュースも好きだったよね?ナオトはカフェオレも好きだけど、コーラも実は好き。私は炭酸飲料は全部好きだけれど、ウーロン茶もよく飲んでた。なんだか、昔みたいで懐かしいね」

アサコが独り言のように言いながら、それぞれの好きな飲み物を目の前に置いていく。

「よく覚えてるな」

グラスを受け取ったナオトがコーラを一口飲んでから言った。

「うん、よく覚えているよ。アカリにはさっき話したけれど、ナオトも知ってるのかな?私、引っ越してから友達が一人もいなくて……。恥ずかしいけれど、イジメに遭っていたの。そして校舎の窓から飛び降りて自殺した。だから、こうやって話せる相手っていなかったんだ」

アサコが寂しそうに笑う。

「そうね。私の家で小学生の頃からこうやって3人でよくお菓子を囲んでゲームをしたり、話をしていたわよね」

まだ腕が痛いのか右腕をさすりながらアカリが言った。

「そうだったね。ナオトがゲームが上手くて勝てなくて、アカリは怒ってばっかりだった。私はナオトにもアカリにも勝てなかったけれどね」

「アサコは大人しいけれど,、実は負けず嫌いで悔し泣きしたことあったね?あれは小4?小5?いつだったかな」

「なあ」

2人の会話を遮るようにナオトが言った。

「お前ら、あの金はどうした?使ったのか?」

ナオトの言葉に2人はお互いを見る。

「あの時にネットバンクに入金したはずだ。親にもバレないように。忘れていないよな?」

「そのことなんだけれど……」

さっきの勢いとは違い、アカリが困ったように言った。

「スマホがないのよ。私も家宅捜索されているって聞いて、事件の証拠品のことをまずは考えた。でも、アサコと会って気が付いた。ここは時間が止まっているらしいけれど、スマホがない。だから、スマホを押収されて、あのお金の存在がバレたらどうしようって思っているの。ここにはパソコンもないみたいだし……」

「え?」

ナオトが制服のポケットの中を全て探した。

「ナオトもやっぱり持ってない?スマホ」

アサコが言うと、「ない……。なんでだよ」と返した。

「ウタカタが持っている可能性は?」

ナオトの質問にアサコが首を振る。

「私が一番にここへ来たんだけれど、持ち物が何もないの。ウタカタさんに聞くよりも、ミコさんに聞いた方が確実だろうなって思って聞いたんだけれど、ここへ来る人間は何も所持品は持ってこないって言われた。ミコさんは嘘をつく人だとは思えないから、本当のことなんだと思う」

アサコの言葉に頷いてからアカリが言った。

「私たちは使っていないわ。アサコとお互いの本を見せあって確認もした。ナオトも使っていないんでしょ?私たちは生死を彷徨っているから、現世で所持品を調べられると思う。ナオトは、医療ミスってウタカタさんに聞いたけれど、私とアサコは事故と自殺。身元を確認するために所持品を調べるのは当然のことよ。気づかれたら大変だわ。高校生が持てる額じゃない。大人でもそんな大金、なかなか持っていない。お金の出所を調べられる可能性が高いのよ」

「マジかよ……」

ナオトは天を仰いだ。

「だから」

アカリは間をおいてから続ける。

「悔しいけれど、ウタカタさんが言う通り「あの事」を振り返って話し合うべきなのよ。ナオトもわかっているでしょ?4人目が、「新山ユメ」が来る前に私たちは、もう一度、振り返らないといけないの」

「クソ!新山ユメが鍵を握っているってことかよ」

「それはわからないけれど……。ユメが私たちの前に現れて、そして「あの事」が起こった。なぜ、あんな事になってしまったのかをキチンと正確に思い出す必要はあると思う」

アサコも同意したように言った。

「みんなで本を読み合って確認しない?自分視点だけならわからないことが多いわ。この本は他の人間の思想思惑も書いてあるけれど、3人で読み合わせた方が確実よ」

アカリが言いながら本のページをめくる。
それに合わせたようにアサコとナオトも本を開いた。

「新山ユメが私たちの前に現れたのは、中学1年生の2学期の終わり頃。そして、「あの事」が起きたのは、2年生になる春休みよ」

3人はそれぞれのページを確認して頷いた。




個室のドアの外に寄りかかっていたウタカタはニコリと笑った。

「うん。そうしなきゃ、キミ達は答えに辿り着けないからねー。順調、順調」

「ウタカタさん、そろそろ「新山ユメ」が来ます。彼らに知らせなくてもいいんですか?」

ミコがウタカタのそばで囁く。

「答え合わせに時間がかかるでしょ?その間に「新山ユメ」からも話を聞かないといけないからね。それからで十分だよ。あの3人と彼女が会った時、平和に話ができるように、僕らはサポートしないとね」

ウタカタはミコにそう言って、本の表紙を見せる。焼印の文字で「新山ユメ」とタイトルついている。

「平和に解決出来るのでしょうか……」

ミコが浮かない表情で呟く。

「ミコちゃん、これを正しい道へ選択させるのが僕らの仕事だよ?これ、『神様認定資格』の試験に出ますよ?頑張ろうね」

そう言ってミコの頭を軽く撫でる。

「えー!出るんですかー?……頑張ります。やるしかないですね」

「そういえば、聞いたことがなかったけれど、何でそんなに格闘技の師範代を持っているの?」

「え?うーん……、趣味ですね。好きなんですよ、格闘技も身体を動かすのも。そういう試験なら楽勝なんですけどねー」

「へー。人は見かけによらないもんだよね」
ウタカタの言葉にミコが笑った。

「ウタカタさんに言われたくないですよ」

「アハハ、そりゃそうだ。じゃあ、行こうか?新山さんが招集されるよ」
ウタカタは一度、個室を振り返って、笑顔で頷いてからその場を離れた。
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