黙って俺に守られてろ~クールな彼は過剰な庇護欲を隠しきれない~
 そんな彼女がいじらしくて、胸が詰まる。

「かわいい子ね。伊尾くんの彼女?」

 俺と佐原を見比べながら、梨花さんが肩を寄せてたずねてきた。

「違いますよ」
「えぇ。彼女じゃないの? あの子、じっと伊尾くんを見てたのに?」

 梨花さんは、俺の答えに不満そうな声を出す。

 そんな会話をしているうちに、佐原はうつむいたままこちらに背を向けた。

 そのまま彼女は歩き出す。
 どんどん遠くなり雑踏に紛れていく佐原の後ろ姿を、俺は目を細めて眺めた。

「あいつは、ただの後輩です」

 半分自分に言い聞かせるように言うと、胸がわずかに痛んだ。

「伊尾くんももう三十歳よね。そろそろ結婚してもいい年頃じゃない。素敵な恋人はいないの?」

 梨花さんにたずねられ、俺は苦笑する。

「俺は恋愛に興味はないし、結婚するつもりもないんで」
「ま。せっかくいい男なのにもったいない!」

< 123 / 219 >

この作品をシェア

pagetop