身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
『出産も、育児も、すべて陽鞠に任せきりで、都合のいいことを言っているのはわかる。でも、俺もまりあに会いたいんだ。たったひとりの俺の娘だから』
「修二は毎月養育費を入れてくれている。手は付けていないけれど、まりあに何かあったときに心強く思っている。そこまでしてもらって無関係とは言い切れないわ」

なるべく正直に自分の気持ちを伝えておこう。

「でも、あまり気乗りはしないの。まりあは二歳で、イヤイヤ期って言われるくらいきかんぼうだし、修二に対しても人見知りをしてしまうかもしれない」
『うん、わかるよ』

修二は即座に共感の言葉を重ねてくる。私は顧客じゃないから、そんなに気を遣ったトークしなくてもいいのに。

『陽鞠が俺を気遣ってくれているのはありがたいと思う。まりあにも、初めて会ったおじさんに懐いてくれとは言えないよ。俺はまりあとひと言ふた言喋れるだけでいいんだ。直接まりあを見たいんだ。泣かれてしまっても、嫌がられてしまっても仕方ないと覚悟してるよ』

ここまで理解を示されて、無碍には断りづらい。修二はそこを狙って話を進めている可能性もある。だとしても、修二に顔まで想像できる私には、冷たくあしらうことはできなかった。

「……そうね、一度だけ。短い時間でよければ」
『本当にいいか?』

修二の声質がぱあっと明るくなった。

『それじゃ、来週の日曜なんかどうだろう。急かな?』
「いいよ」

まりあのためにも日曜は絶対休むことにしている。ちょうどいい。

『店を決めたら連絡するよ』

修二に明るい声に、私は言おうか迷って、仕方ない気持ちで付け足した。

「メッセージアプリ、変更してないから昔みたいに送って」
『わかった。陽鞠、本当にありがとう』

電話を終えて、ふうと自然にため息が漏れた。思ったより普通に会話できた。
修二が私の名前を呼ぶ語調は、あの頃とまったく変わっていなかった。




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