身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「別れたいんじゃない」

修二は首を振った。

「陽鞠と頑張っていきたいと思っている。……お腹の子のためにも」

私は自身のお腹を触った。四ヶ月に入ったばかりの赤ちゃん。修二と私の赤ちゃんだ。

「この子ができなければ、修二はまだ結婚する気もなかったんでしょう」

私は自嘲的に笑った。

「修二はキャリア形成の真っただ中だものね」
「陽鞠だって、俺と子どものために異動を断って退職してくれたんだろう? 同じことだ」
「我慢するのは……ってこと?」

修二が渋い顔になる。修二にとって結婚はまだ足枷にしかならないだろう。実際に産む私ほど、理解も覚悟もないはず。

「やめよう、堂々巡り」

また互いを傷つけるやりとりになりそうで、私は首を振った。
いつだって、こう。わかりあっているつもりで、わだかまっている部分が何かのはずみで噴出する。弁護士としてまだ若手の修二は予想より早い結婚に戸惑っていたし、夢だったアパレルメーカーで頑張っていた私は妊娠を理由に海外転勤を断り退職した。後悔しない決断なんてないけれど、よると障ると喧嘩になるのは、きっと私たちがすべてに納得できていないせい。このまま一緒にいてはいけないのだろう。

「入籍前でよかったじゃない」

私は静かに言った。
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