身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています
「御礼はしますよ。単純ですけど、全部終わったら新しい通勤バッグとか靴とか、用立てようかと思ってました」
「そういう堅苦しいものじゃなくて、店長の手料理とかの方がいいよ」
「ちょくちょく食べてますよ。食事作り、完全に怠けてはいないので」

阿野さんはちがうちがうと首を振り、言う。

「もう少し特別っぽいの。たとえば、バル風のおつまみを用意してワインを開けてふたり飲みとか。まりあちゃんが寝静まったあとにね」

だから、どうして私と修二の仲を取り持とうとするのか。そんな思わせぶりで意味深なことできないわよ。

「絶対やりません」
「じゃあ、シンプルにまりあちゃんとケーキでも作ってあげたら」

ケーキ……、お菓子作りはさほどしたことがない。作ったら意外に思われるかもしれないな。そして、まりあも手伝ったといえば、修二は大喜びだろう。もちろん、まりあが手伝えることなんてほとんどないのだけれど。

「まあ、検討してみます」

私は言葉を濁して開店準備に戻る。

修二との同居延長決定から一週間。季節は四月の新学期。入学や進学でお花屋さんの需要はまだあり、私は忙しい毎日を送っている。エリアマネージャーの復帰もずれこみ、スタッフの補充は新入社員教育のあと、四月なかばだそうで、私の勤務体制はそのまま。修二に残ってもらって、本当に助かっているのは事実だ。
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