ズルくてもいいから抱きしめて。

「えっ?天城さん出張行くんですか?」

「あぁ、作家との交渉が難航してるらしくて、俺も同行することになった。」

企画室というのは、編集に入る前の本を企画する部署。

言わば、作家と交渉するための営業のような仕事だった。

「そっか、あの作家さん気難しい所があるって有名ですもんね。何日ぐらい行くんですか?」

「とりあえず2〜3日のつもりだけど、こればっかりは作家の気持ち次第だな。」

「そうですか、了解です!頑張ってきてくださいね!」

「俺が留守の間は部長が室長代理も務めてくれるけど、困ったことがあれば連絡くれれば対応するから。あと、、、」

天城さんは私の耳元に近付き、そっと囁いた。

「寂しくなったら、いつでも連絡してこいよ。」

「はい、、、」



天城さんが出張へ行き、3日目の朝を迎えた。

出社し、自分のデスクに座ろうとすると背後から声が聞こえた。

「おぉ〜天城、お疲れさん!、、、そうか、、、うん、、、うん、、、そりゃまた大変だな〜。まぁ、こっちのことは気にするな!おう、じゃあ頑張れよ〜」

天城さんから部長に電話?どうしたんだろう?
そろそろ出張から帰ってくるはずなのに、、、

「お〜い神崎!ちょっと良いか?」

「あっ、部長!おはようございます!どうしました?」

「たった今、天城から連絡があって、作家がかなりゴネてるらしい。手応えはあるから、もう少しあっちで粘るそうだ。」

「わかりました。」

そっか、天城さんまだ帰って来れないんだ。

天城さんとは会社に来れば毎日会えていたから、数日会えないのはかなり珍しい。

いつ帰って来れるんだろう?
メッセージ入れてみようかな?

いや、、、仕事で行ってるんだし、「いつ帰って来ますか?」なんて迷惑だよね。
< 11 / 101 >

この作品をシェア

pagetop