シニアトポスト





21歳の時、1年半付き合った彼氏に浮気されて別れたばかりだったあたしは、サークルの飲み会で浴びるほどのお酒を飲んで、気づかぬうちに酔いつぶれ、───翌日、“彼”の家で目を覚ました。



「手、出してないから安心してよ」



そう言って笑った“彼”は春野 千颯くんという名前だった。春野くんの持つ雰囲気は優しくて、穏やかで、直感で(彼の彼女になる人はしあわせだろうな)と思った。


へらへらと笑う彼は、酔いつぶれたあたしを介抱し、宿を提供してくれたらしい。あたしがどんな気持ちでお酒の力に頼ってたのか、どんな痛みを抱えていたのかを、その時彼はなにひとつ知らなかった。


優しい人。彼と話した時の印象はそれだった。



「…ね、春野くん」

「んー?」



誰かに癒してほしかった。誰かの温もりが恋しかった。



「───…シよ?」



知らないままでいい。何も考えたくなかった。
浮気されるほど本気にされていなかった自分を認めたくなかった。

───ただ、何も知らない貴方に愛されたかったのだと思う。



「え、ちょっ、」

「いいじゃあん」

「だ、ダメだって藍ちゃんっ」

「慰めてよ、春野くん」



2日酔いに惑わされるまま、愛を欲しがるまま、───私は、春野くんの優しさを利用した。


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