最後の一夜が授けた奇跡
咄嗟に私は自分の手を体の後ろに回して隠す。
律樹が危ない方を引き受けてくれていたのに、何かの破片が私の片付けている服の中にあったらしい。

「見せろ」
「大丈夫」
座って作業をしている私の前に膝をついて律樹が私を見る。
「見せろって」
半ば無理やり律樹は私の手をひいてその傷を確認した。

「ちょっと待ってろ。」
傷がついて痛いのは私なのに、私よりも痛そうな表情をしながら律樹は、迷わずキッチン前の棚から救急箱を出してきた。

「破片入ってないだろうな」
真剣な顔で私の指にできた切り傷を確認していく律樹。
「大丈夫だよ」
手を自分の方へ引き戻そうとしても、律樹の力にはかなわない。
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