最後の一夜が授けた奇跡
こんなつらい思いをさせてしまうなら、付き合わなければよかった。一緒にいることを選択しなければよかった。
はじめから別れがある恋を、止められなかった自分自身を責めたくなる。

「俺」
律樹はもう一度私の手に視線を落とす。
「俺、自分の運命は仕方のないことなんだって思って生きて来た。」
「・・・」
「背負ったものが大きくても、背負えるだけの人間に俺がなればいいんだって。それが俺の背負うべきものなんだって、どこかで割り切ってた。」
幼いころから、律樹は両親だけじゃなく周囲の大きな大きな期待に応えて生きて来た。
そして社長になるためにといろいろな教育も受けて、たくさん我慢もしてきた。

律樹と付き合っているときに、話してくれたことをちゃんと覚えている。

そのころの幼い律樹に出会えていたら、私は・・・律樹を抱きしめて・・・支えたかったとすら思っていた。

「でも、初めて自分の運命を呪いたくなった。」
律樹は私の指をなぞるように、大きな手で触れながら話す。
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