紅一点
『辛ければ、這って来れば?
私はこのまま先に行く。』
『おい!?』
『ちょっと待て!!』
背後で2人が叫んでいるけど
このまま、撒けるものなら
撒いてしまおうかと思った。
どうせ後ろの2人も、この先、
何度体験しても耐え難い
重力の変化が訪れ、思うように
進めなくなるだろう。
しばらく待って、
先に行くとしよう。
時間にしてどのくらい
かかったのだろう?
配管の筒状の傾斜も
利用して駆け抜け、
2人より先に井戸付近に
辿りついた。
果たして、2人は
ここまで来れるのだろうか?
淳之介ほどがっしりして
いないとは言え、優男2人も
それなりにタッパはある。
ちなみに、あの無駄に
いい身体のカフェ経営者は、
その恩恵で、横穴にすら入れず、
まさかのお留守番だ(笑)
…ゼェ…ゼェ…ゼェ…
ハァ…ハァハァ…ハァ…
卑猥なやまびこが
配管内に木霊している。
『へぇ…根性あんじゃん』
暗いだろうし、
出迎えてやろう。
精々喜ぶと良い(笑)
おもむろに首から下げた
懐中電灯の先を顎に向け、
可能な限りうつろな表情をして
点灯させた。
“灯りってね、ヒトにとって
希望をつなぐものよ。”
そう言って、淳之介が持たせて
くれた灯りで、…オッサン共に
希望を与えんのも癪だし。
“ハオ、女の子がケガして
キズでも残しちゃあ、ね?”
そうも言ってた。
うん。それもそうだな。
淳之介。
『…ゼェ…あー…アレ…
灯りじゃね?』
『…ハァ…ハァ…。灯りだな。
…って事は…ゴールか?』
『…しかし、あいつ、とんでもねぇ
動きをしやがるな。…しかも、
なんなんだこの重力は!?
体が言うことをきかねー。』
這々の態という所だろうか?
男2人の声が段々近づいてくる。
…まぁ、本来なら、水ぐらい
用意してやりたいところだが、
…残念ながら、この先の井戸水は
バクテリアだらけで飲めない。
我慢してもらおう。