紅一点
  

『おい…お前、本当に
こんな所からきたのか?』

弁護士の声が反響している。

地下水路をしばらく歩いた
先にある、異世界への経路の
入り口、横穴の鉄扉前で
落ち合ったばかりの弁護士が
疑いの眼差しで毒を吐く。

『2往復してる。で?
行くの?行かないの?』

ジャージ姿でストレッチを
しながら問えば。

『威張るな!』

ブローカーが私の頭を叩く。

『っつーか…昼も見たが
本当にこんな所から
異世界へ行けるのか?
これで隣町に出た日には
お前、マジで海に沈める
からな。』

最近、ホンモノの極道でも
大っぴらに素人に言わない様な
台詞を、躊躇いもなく吐くのな。
弁護士ってのは。

鉄扉を外し、顎で私に
先に行く様、指示をしてくる。

…コノヤロー共

パルクール選手の実力を
見せてやろう。

オッサン共に合わせて
ゆっくり行こうと思っていたが
予定変更だ。

この130センチ程の口径の
横穴配管の中を全力疾走してやる。

『狭い!!』
『ずっとこんなのが続くのか!?』

デカイおっさん達は膝立ちで
身を屈めて進むのが精々で
既に不満全開だ。



  
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