ブエノスアイレスに咲く花

僕と相沢は大学に入ってすぐ、
同じアルバイトを始めた。

ビジネスホテルの深夜の受付、という仕事だ。

二人ずつのシフト制で、
深夜はほとんど人の出入りもなく、
居眠りさえしなければ特別な問題はない。

僕たちはそこで本を読んだり、
必須科目の課題をしたりと、
とても有意義な時間が過ごせていた。


そこで出会った同じ年の美大生が、
【河野 仁】だった。

河野はタバコを吸わない代わりに
いつもガムを噛んでいて、
「めんどくさい」が口癖だった。

そのわりには綺麗好きで、
従業員用のトイレでは
必ず座って用を足すように言われたのが
僕の記憶する河野との初めての会話だった。

河野はケータイをよく気にしていて、
着信が分かると、すらりと伸びた長い足で、
その細さがわかる幅の狭いジーンズの裾を
踏みつけて歩き、いつも非常階段に向かう。
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