婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 あんな事件……俗に【宮松少年通り魔事件】と呼ばれ、当時は連日メディアで取り上げられ大きな騒ぎとなった。
 紅が高校三年生になったばかりの春に起きた惨事だったから、二つ年下の陽菜もおそらく記憶にあることだろう。

 まだ十六歳だった少年が、人通りも多かった昼間の街中でナイフを振り回し、七人もの罪のない人々を傷つけたのだ。 不幸中の幸いで命を落としたものはいなかったが、最初の被害者となった中年女性は一時は意識不明の重体となった。

 その女性が老舗料亭宮松のお客様だったのだ。夫婦でランチを楽しんで店を出た、その瞬間を犯人の少年に襲われた。
 宮松本店の目の前の通りが、この悲惨な事件の現場となってしまったのだ。

 大正時代創業で著名人の行きつけの店としてもよく名前のあがる宮松は一般の知名度もあったため、テレビでは店の名前も度々報道された。

 客単価の高い、ハレの日に利用されることの多かった店だ。縁起が悪いと客足は遠のいた。事件後のひと月は一件の予約も入らなかったほどだ。本店だけではない。地方の店舗や物販などの他事業にも事件の余波は大きかった。

 結局、事件から半年も持たずに宮松は倒産してしまった。世間は宮松が一番の被害者だと大いに同情してくれたが、同情が集まったところで借金が減るわけでもなく、二ノ宮家は自宅はもちろん所有していた骨董や絵画まで売却することになった。


注)実際にはこういったケースではお店の名前は伏せられるのかなーと思いますが……フィクションということでご了承くださいませ。
 
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