婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「不運というより、あれはマスコミによる人災だと私は今でも思ってるけどね」

 学生時代からの紅の親友、日比野玲子は飲み干したビールグラスをドンとテーブルにたたきつけた。グラスを握る指先にはメディアへの憤りがこめられていた。
 喜怒哀楽が激しいところは学生の頃からちっとも変わらない。

「加害者ばかりが守られて被害者の権利は無視される典型じゃない。宮松、宮松ってテレビで連呼しまくるから、みんなが宮松の事件なんて言うようになっちゃったのよ! なんっの関係もないのにさ~。我が家にとっても思い出の店だったのに、あんなことで無くなっちゃうなんで悔やみきれないわよ」

 紅と玲子は文教地区にある金持ちのご令嬢ばかりが通う女子校の同級生だった。 幼稚園から高校までエスカレーター式で顔ぶれはほとんど変わらない。そんな環境だからもちろん顔は見知っていたけれど、ふたりは最初から仲良しだったわけではない。

 玲子の父親は映画監督、母親はベストセラーを連発するミステリー作家。芸能界にも顔が広く、玲子自身も小学校時代は子役として舞台に立ったりもしていた。つまり、お嬢様学校の中でも華やかなグループに属する子だった。それに対して、紅はどちらかと言えば大人しめのグループに属していた。呉服屋の娘や日舞の家元の子など、家庭環境が近しい子と行動を共にしていた。
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