婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 だが、いくら紅に甘い宗介とはいえ、ここは怒っておきたかった。宗介が何時に到着できるかもわからないのに、外で待ち続けるなんて……しっかり者の紅らしくもない、バカな行動だった。

 紅はほんの少し逡巡したのちに、意を決したというような顔で宗介を見上げた。凛とした黒い瞳が、まっすぐにこちらを見つめてくる。

「ごめんなさい。わざとなの。外で待つって言えば、宗くんは絶対に来てくれると思って。莉子さんといても、私のところに来てくれるかなって……言葉にすると我ながら性格悪いけど、でも、どうしても宗くんに会いたくて」

 宗介は呆れて、苦笑を漏らす。紅に対してではない。自分に対してだ。

「うん、性悪。けど、相手が紅だと……それもかわいくてたまらない。俺も大概イカれてるな」

 紅になら、たとえ殺されても、幸せを感じるんじゃないだろうか。そのくらい自分は彼女に溺れている。そう思った。

「紅に会いたいって言われたら、俺はどこにいても、誰といても、すぐに飛んでいくよ」

 そしてもう一度、ぎゅっと強く彼女を抱きしめた。そのとき、ふいに触れた彼女の手に指輪が嵌っていることに気がついた。宗介はそっと彼女の左手を取ると、そこに視線を落とした。
 大粒のダイアモンドは夜の闇のなかでもキラキラと輝き、己の存在を主張していた。
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