婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 宗介は真顔だった。聞こえなかったということはないはずだけれど……やっぱり、遅すぎたのだろうか。紅が不安になり始めたところで、宗介はようやく口を開いた。

「それ、本気で言ってくれてる?」
「もちろん! 私、宗くんを好きにならないように、ずっと自分を抑えようとしてた。でも、できなかった。好きなの、宗くんとずっと一緒にいたい」

 宗介は膝をかがめて、紅と目線を合わせた。彼の両手が、優しく紅の頬を包みこむ。コツンと額がぶつかったかと思うと、目の前に彼の甘い甘い微笑みがあった。

「いま、死ぬほど幸せだ。俺も紅とずっと一緒にいたい」

 そして、ふたりはゆっくりと唇を重ね合わせた。

 気持ちを確かめあった後は、互いの誤解を解くために時間を使った。まずは紅からだ。田端はただの同僚で、二人きりだったわけではないことを説明した。

「同じ職場の人だってことは、すぐに気づいたよ。前に写真を見せてもらったから」
「写真なんて見せたことあった? さすが宗くん。すごい記憶力だね」

 となると、彼がショックを受けているように見えたのは紅の気のせいだったということか。紅がそう言うと、宗介は笑いながら首を振った。

「気のせいじゃないよ。めちゃくちゃ嫉妬してた。俺も公務員になって紅の同僚になれないかなって……わりとマジで考えたりした」
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