婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「ほ、ほんとに?」
「うん。俺も紅に頼られたいし、なにより働く紅を見られるのが羨ましい。年齢的にはまだ受験資格はあるみたいなんだけど……」

 冗談なのか本気なのかわからないことを彼が言うので、紅はあわててしまった。

「同じ職場じゃなくったって、宗くんのことは頼りにしてる。むしろ甘えてばっかりだから、これからは甘えてもらえるように頑張る!」

 紅が意気込むと、宗介は悪戯っぽい目で彼女を見つめ、ふっと頬をゆるめた。

「いいの? じゃあ早速、今夜は甘えさせてもらおうかな」

 その表情がやけに色っぽくて、紅の心臓はまたうるさく騒ぎ出した。顔が熱い……のは気のせいだろうか。

「あ、赤くなった。どんなこと想像したの?」

 紅の耳元でささやく宗介は、いつになく楽しそうだ。困ったことに、彼は意外とSなのだ。紅はますます赤くなった顔で彼を押しのけた。

「もうっ。それより、宗くんの事情も教えてよ」

 気持ちを確かめあった今となっては、莉子がどこの誰でも気にならない。とまでは、やはり言い切れなかった。疑う気はないが、親しげであったことは事実だし、関係はやはり気になる。

「さっきも言った通り、莉子はイトコだよ」
「イトコ? 聞いてないよ!」
「言ったよ。酒癖が悪いから、ほうっておけないってことも」

 どうやら、宗介は莉子を追いかける前に紅にそう言ったらしいのだが……莉子の登場とその後の展開に衝撃を受けていた紅の耳には届いていなかった。
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