婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「嫌なんだ」
「いや、その、嫌ってわけじゃ……」
「隠さなくていいよ。最近の紅は、すごくわかりやすい」

 すっかりお見通しのようなので、紅はあきらめて正直に告白した。

「だって、莉子さんは宗くんを好きなんだよね? たしかイトコ同志って結婚もできるし」

 あんな美人が宗介のそばにいるのは、やっぱり少し不安になる。莉子だけではない。立花モモや宗介の会社の女性たちも……彼のそばにいる女性はみんな彼を好きになってしまうんじゃないかと、そんなふうに考えてしまう。

(だって、宗くんてものすごくかっこいいし、性格もいいし、どこにも欠点なんてないし……)

 むしろ、これまで、どうして気にせずにいられたのだろう。好きだと自覚したら、急に嫉妬深くなってしまった自分に、自身が一番驚いているような状況だ。
 紅は両手で顔を覆った。弱々しい声で宗介に訴える。

「ごめん。急にヤキモチなんてやいたりして、変だね、私」
「むしろ嬉しいよ。その顔、もっとよく見せて」

 宗介は紅の両手をはがすと、自分のほうへと向かせた。 

「莉子はなんかヤケになってるだけだと思う。それに……何年も紅しか見てこなかった俺が、いまさら他の女に心がわりなんてすると思う?」

 熱のこもった瞳で見つめられて、紅の胸はキュンと高鳴った。

 本当に、今までどうして普通に接していられたんだろう。こんなに素敵な人に甘い言葉をささやかれて、とても正気を保ってなんていられない。
 以前は家族みたいな存在だと思っていたなんて、嘘のようだ。

(もう、お兄ちゃんみたい……なんて絶対言えない)
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