婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「そっかぁ。イトコなんだ」

 親戚ならば親しげでもおかしいことはない。疑ってはいないと言いつつも、どこかほっとしてしまった自分に紅は呆れる。

「うん。ずっと英国暮らしだから紅に紹介したことはなかったと思うけど」
「あ、思い出した。去年、宗くんがイギリスに行ったときに向こうで食事したって、聞いたことあったよね」
「うん。莉子はうちの母親と仲がいいから、話には度々登場してると思うよ」

 英国在住の宗介のイトコ。存在としてはたしかに認識していた。だが、紅の思い描いていた人物と実際の莉子が違いすぎてピンとこなかったのだ。

「もっと、いかにもお嬢様って感じの人を想像してた」
「きつい性格でびびっただろ?」

 宗介が苦笑する。紅はあわてて弁解した。まぁ、正直図星なところもあるのだけれど。

「昔はもっとお嬢様風だったんだけどね。海外が長いと、主張が強くなるのは仕方ないのかも。あっちは自己主張してなんぼってとこあるから」
「向こうでバリバリ仕事してるなんて、かっこいいね」

 初対面が最悪すぎたので仲良くなるのは難しいかも知れないけど、紅自身は莉子のような強い女には憧れがある。違う形で知り合っていたら、仲良くなれていまかも知れない。

「けど、しばらくはこっちで仕事するらしい」
「え? そうなの?」

 驚きで目を丸くする紅を見て、宗介はくすりと笑う。
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