婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
でもここは表参道でも代官山でもない。M市の市役所前だ。そんな場所に有名女優が現れるはずもない。彼は当たり前のように、紅に向かって手を上げた。
「紅! お疲れさま」
「そ、宗くん!? なんで……」
紅は慌てて彼に駆け寄った。
「飯でもどうかなと思ってさ」
さらりと彼は言うが、紅は困惑した。
「それなら電話でもくれたらよかったのに……」
「事前に電話したら断られそうだから」
「うっ……」
たしかにその通りだ。事前に連絡をもらっていたら、おそらく適当な理由をつけて断っただろう。
でも、それも当たり前じゃないだろうか。紅と宗介は婚約破棄ホヤホヤの気まずいカップルなのだから。
こんなふうに軽いノリで食事に行こうなんて関係性ではないはずだ。
それに……紅は宗介の顔をチラリと盗み見る。穏やかで優しげな瞳、薄く形のいい唇。
あの夜は……この瞳が燃えるような熱を持って紅を見つめた。その唇が紅の全身を執拗になぞった。
紅に見られていることに彼はすぐに気がついた。ふっと柔らかな笑みを浮かべて、紅を見返してくる。
「どうかした?」
低く、艶のある声。その声で名を呼ばれる度に、背筋に甘い刺激が走った。
考えないように、思い出さないように……必死に忘れたふりをしていた記憶が鮮明に蘇ってくる。
「紅! お疲れさま」
「そ、宗くん!? なんで……」
紅は慌てて彼に駆け寄った。
「飯でもどうかなと思ってさ」
さらりと彼は言うが、紅は困惑した。
「それなら電話でもくれたらよかったのに……」
「事前に電話したら断られそうだから」
「うっ……」
たしかにその通りだ。事前に連絡をもらっていたら、おそらく適当な理由をつけて断っただろう。
でも、それも当たり前じゃないだろうか。紅と宗介は婚約破棄ホヤホヤの気まずいカップルなのだから。
こんなふうに軽いノリで食事に行こうなんて関係性ではないはずだ。
それに……紅は宗介の顔をチラリと盗み見る。穏やかで優しげな瞳、薄く形のいい唇。
あの夜は……この瞳が燃えるような熱を持って紅を見つめた。その唇が紅の全身を執拗になぞった。
紅に見られていることに彼はすぐに気がついた。ふっと柔らかな笑みを浮かべて、紅を見返してくる。
「どうかした?」
低く、艶のある声。その声で名を呼ばれる度に、背筋に甘い刺激が走った。
考えないように、思い出さないように……必死に忘れたふりをしていた記憶が鮮明に蘇ってくる。