婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「いらっしゃいませ〜。あら、夜に来てくれるなんて珍しいわね」
すっかり顔なじみになっている店のおばさんが紅に気がついて声をかけてくれる。彼女は宗介を見とめると、にんまりと目を細めた。
「今日は職場のみんなとじゃないのね〜。デート? えらい男前じゃないのー」
「ち、違いますよ! そんなんじゃなくて……」
「デートですよ、もちろん」
必死に否定しようとする紅をさえぎって、宗介はにこりと微笑んだ。その笑顔に、おばさんはすっかりやられてしまったらしい。ま〜と目を丸くして宗介を見上げている。
「いーわねぇ、若い人は。うふふ。男前だから前菜はサービスしちゃおうかしら」
ウキウキと厨房へと入っていくおばさんの背中を見送りながら、宗介は言う。
「常連さんなんだ」
「常連ってほどでも……週にニ、三回?」
早い・安い・旨いの三拍子がそろっていて、安月給の公務員にはありがたすぎるお店だ。課長なんか大げさでなく週五でこの店の世話になっている。
「十分常連じゃないか。昔は油っぽいものは苦手とか言ってたのに」
宗介はクスクスと笑っている。
「大昔の話よ。気取ってみたい年頃だったの!」
宗介にはそう言ったが、別に気取っていたわけではなくて昔は本当に中華や洋食は苦手だった。幼い頃から和食ばかり食べていたせいか、年寄りじみた舌になっていたのだろう。
すっかり顔なじみになっている店のおばさんが紅に気がついて声をかけてくれる。彼女は宗介を見とめると、にんまりと目を細めた。
「今日は職場のみんなとじゃないのね〜。デート? えらい男前じゃないのー」
「ち、違いますよ! そんなんじゃなくて……」
「デートですよ、もちろん」
必死に否定しようとする紅をさえぎって、宗介はにこりと微笑んだ。その笑顔に、おばさんはすっかりやられてしまったらしい。ま〜と目を丸くして宗介を見上げている。
「いーわねぇ、若い人は。うふふ。男前だから前菜はサービスしちゃおうかしら」
ウキウキと厨房へと入っていくおばさんの背中を見送りながら、宗介は言う。
「常連さんなんだ」
「常連ってほどでも……週にニ、三回?」
早い・安い・旨いの三拍子がそろっていて、安月給の公務員にはありがたすぎるお店だ。課長なんか大げさでなく週五でこの店の世話になっている。
「十分常連じゃないか。昔は油っぽいものは苦手とか言ってたのに」
宗介はクスクスと笑っている。
「大昔の話よ。気取ってみたい年頃だったの!」
宗介にはそう言ったが、別に気取っていたわけではなくて昔は本当に中華や洋食は苦手だった。幼い頃から和食ばかり食べていたせいか、年寄りじみた舌になっていたのだろう。