婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「今はなんでも食べるよ。ファーストフードもあんなに美味しいなんて知らなかった」

 むしろこの数年は、きちんとしたお店なんて宗介と会う時くらいのものだった。

「そうなんだ。じゃあ、次に会うときはハンバーガーにしようか」

 ちょうどそのタイミングで、サービスだと言う前菜盛りが運ばれてきた。宗介は早速箸を伸ばす。

「おっ、うまい! 紅の行きつけなだけあるね」

(次……次があるの? というか、結局ご飯食べてるけど……私たちの関係性ってなんなんだろう)

 無邪気に食事を楽しむ彼を前に、紅は思い悩んでしまった。

 彼のなかで自分は婚約者から妹分というポジションに変わったのだろうか。だから深い意味はなく、食事に誘ったのだろうか。
 たしかに、自分たちの婚約破棄は愛し合う恋人同士の破局というような劇的なものではなかった。紅だって別に宗介と縁を切りたいなどとは思っていないし、こうして彼と過ごす時間はちっとも不快ではない。

(でも、これじゃケジメが……)

「食わないの?」
「えっ……」
「餃子。イチオシメニューなんだろ」
「えっと……うん、食べるよ。もちろん」

 紅は目の前の餃子にかぶりつく。いつも通り、安定の美味しさだった。

(まぁ……いっか。ご飯食べるだけだもん。別にデートとかそんなんじゃない)
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