誓いのstatice



その日は仕事に集中することが出来ずにいた




料理を運ぶ時も
カウンター作業をする時も
キッチン作業をする時も
気付けば自然とマスターを目で追ってしまう





「疲れたぁ…。」

(やっと終わった)




オーダーミスや会計ミスも怪我も無く
なんとか無事に1日を終えた




(……今日は1人で早めに帰ろ……)



「はぁ…」


私の口から自然とため息が出た瞬間





「麻耶ちゃん、帰るよ」




マスターが声を掛けてきた




「「えっ?」」



私はびっくりして
その場に一緒にいた絵里さんと同時に
返事をしてしまった




「優人、送るなら私を送ってよ!」




絵里さんはここぞとばかりにマスターに近寄る




「お前んち隣だろ?」





二人の距離感の近さに耐えきれず
思わず口を挟んでしまった




「隣ってお花屋さんなんですか?」




「……」



全く喋ろうとしない絵里さんに代わりマスターが答えてくれた



「あぁ、まだ言ってなかったね。
絵里は花屋の娘なんだ」





「お花屋さんっていいですよね!
私も花好きなんですよ!」




「そうなんだ。麻耶ちゃんは何の花が好きなの!?」






「私、スターチスって花が好きなんです!」



優しく微笑んだマスターと目が合った


ドキっとした瞬間




絵里さんの甲高い声がした





「あら、偶然ね。
私もスターチスが1番好きなの、
じゃぁ、スターチスの花言葉は知ってるかしら?」



「…花言葉は知らないです。ただ、私にとって特別な花だから…」




「ふっ…」



絵里さんは鼻で笑った



私は絵里さんの”「スターチスが1番好き」”
と言い切ったあの表情が忘れられなかった




カラ〜ン♫





「ただいま」



奥さんのお見舞いから帰って来たマスターのお父さんが店に入ってきた




「お久ぶりです!おじさん!」




「絵里ちゃんじゃないか!!元気にしてたかね?」




マスターのお父さんと絵里さんは
久しぶりの再会に楽しそうに話込んでいる




「今のうちに!」





マスターに手首を掴まれた私は小走りで店を後にした




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