君といた夏を忘れない〜冷徹専務の溺愛〜
4 専務秘書を拝命しました

 目を覚ますと、何度か見たことのある白の天井が目に入る。
 普段と寝心地の異なるベット、その周りにカーテンが引かれ、腕には点滴の針。自宅ではないこの風景に、またやってしまったのだと、絶望感に苛まれた。
 だが、ぼんやりとした頭では、何故ここに寝ているのかすぐに思い出せない。

 ガタッとパイプ椅子が軋む音と同時に、均整な顔が覗き込む。

「気付いたか?」

(え……専務?)

 何度か社報や情報誌のインタビュー記事でしか見たことのなかった、超絶イケメンがそこにいた。彼こそが我が「城ヶ崎ホテル&リゾート」の専務、城ヶ崎遼一。

(どうして専務がここにいるの?)

 その疑問をぶつける暇もなく、焦った様子の専務がドアへと足を運ぶ。

「医者を呼んでくる……!」

 ドアが閉まるなり私はパニックだ。ここは見慣れた私のかかりつけ医。今まで二度倒れたことがあり、いずれもここに搬送されたのだ。
 恐らく今回も会社で倒れてしまったのだろう。どこで倒れたのか思い出せないが、偶然居合わせた専務が付き添ってくださったのかもしれない。
 今日帰国したばかりのはずだ。どうしてこんなタイミングで私はまた倒れてしまったのか。

 嗚呼なんとしたことか。お忙しい専務の時間を奪ってしまった。それどころか。

「あー、やだ、もう」

 会社に勤め続けていれば、遅かれ早かれ就業中に倒れてしまう日が来るかもしれないと思っていた。でも辞めたくなくて、職場を失うのが怖くて、しがみついてきた。

 しかし、もう無理だろう。専務に知られてしまったのだ。噂によれば、『氷の御曹司』なのだ。こんな疾患のある秘書など、役立たずであるばかりか、足手まといと思われ、解雇されるかもしれない。
 思わず両手で顔を覆った。
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