君といた夏を忘れない〜冷徹専務の溺愛〜
7 暑中お見舞い申し上げます
 退職届を提出した翌日。私は、心療内科の待合室にいた。「相沢さーん」と、看護師さんに呼ばれ、第一診察室へ案内される。
 今日は、和久井先生の最後の診察だ。

「引っ越し? どちらへ?」
「まだ決めてないんですが、近々、遠くへ。なので紹介状をいただきたいんです」

 退職届を出した私は、ひとまず遠くへ引っ越す予定だ。そこで、紹介状を貰いにやってきた。和久井先生にお世話になるのもこれが最後だろう。

「分かりました。……僕に、力になれることは、ない?」
「充分すぎるほど良くしていただきましたから。長い間お世話になりました」

 記憶が全て戻りつつあることも含めて相談し、頭痛薬などを処方してもらって診察は終わった。
 
「事情は分からないけど、この病院も僕も、君の居場所の一つだよ。また困ったことがあったらいつでもおいで」
「っ! ……ありがとうございます。」

 先生の優しさが弱った心に沁みた。深々と礼をして、診察室を出る。先生も少し、寂しそうな顔をしていたのは気のせいかもしれない。

 会計を済ませて病院を出ると、寒々とした空気だが青い空が広がっていた。春はもう少し先、気温はまだ寒く、私はマフラーを巻き直した。
< 27 / 30 >

この作品をシェア

pagetop