転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 アイリーシャはルルを抱いて神官長の前に進むと、深々と頭を下げた。

「ありがとうございました。神官長のおかげです」
「わ、私の……?」

 いきなり頭を下げられたので、神官長も面食らったようだ。
 こちらに、人の目が集中するのがわかる。

(あまり、一目にはつきたくないんだけど、しかたないわよね……)

 前世では、こういったことには慣れていた。親に言われてしぶしぶやらされていたけれど、要領はしっかりと覚えている。

「ええ、もちろんですとも! 神官長が協力してくださったおかげで、聖獣を呼び出すことに成功しましたの。これで、病にかかっている人達を治すことができますわ!」

 いつもより声を高くし、優美な微笑みを浮かべるのも忘れない。
 その声に、最初は注意を払っていなかった人も、こちらに向き直るのがわかった。

(我慢我慢……)

 手のひらがじんわりと汗をかいている。

「よろしければ、私にも治療をさせていただけませんか?」
「……でしたら、こちらに」

 できるのかという疑問が、神官長の顔に浮かんでいる。アイリーシャは構わず、彼について奥に入っていった。
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