耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
あまり聞いたことのない穏やかではない声。それに驚いて、美寧は勢いよく顔を上げた。
目が合った怜は、眉を寄せどこか苦しげだった。

(もしかして私……無理を言ってる………?)

どうしてかは分からない。
けど、自分が言ったことが怜を苦しめているのは分かる。

怜は優しいから、きっと無理をしてでも美寧の希望を叶えようとしているのかもしれない。
そんな怜に甘えて過ぎて、いつのまにか自分は我がままになっていたのかもしれない。

そうだ。我がままなんだ。
怜が望むことを無理に聞き出そうとするのも、“特別なキス”を強請(ねだ)るもの———

「ごめんなさい……もう言わない」

潤んだ瞳を逸らし怜の膝から降りようとした美寧を、怜が(はば)むように強く抱きしめた。

「がっかりすることなんて、そんなことは絶対ありません」

「………」

唇を噛んで俯いた美寧の体をぎゅっと抱きしめ、怜は低く囁くように言った。

「あなたが愛しくて仕方ないのです……自分でも怖いくらいに」

(どういうこと………?)

美寧が疑問に思ったその答えを、怜はまるで独白のように口にする。

「あなたのことになると俺はどんどん欲張りになる。深く口づければきっと、もっとあなたが欲しくなる。どこまでも愛したくなる———」

「だけどそれじゃあまた、あなたを怖がらせてしまう……俺はあなたを泣かせたくはないんだ……それに………」

苦々しげに呟く掠れた声が、美寧の胸を甘く締め付ける。

(それに、何?……泣かせたくないって……私れいちゃんに泣かされたことなんて……)

「あっ!」

美寧の脳裏に“あの日”のことが過った。怜の部屋で組み敷かれた時のことを。
思えばあれ以来だ。怜が美寧に“前みたいな”キスをしなくなったのは———


『怖がらせてしまったこと、泣かせてしまったこと、本当にすみません』

あの日のデートの最後に怜はそう言って昼間のことを謝ってくれた。
それに対して、美寧はちゃんと自分の気持ちを言っていなかったことを思い出した。慌てて顔を上げ、あの時言いそびれたことを言葉にする。

「怖くなんてなかった!れいちゃんのこと怖いなんて絶対思わないよ」

「あの時は……ちょっとびっくりしただけ……触られるなんて、思ってなくって……」

「でもね!怖くなんてなかったよ?だって、れいちゃんだもん」

美寧は立て続けに言ってから、怜の目をじっと見上げ最後の言葉を放った。

「あのね、私だってれいちゃんに触れたい。ぎゅってするのも、してもらうのも大好き。キ、キスも……だからっ、」

美寧は意を決したようにぐっと唇を横に引き結ぶと、怜の肩に勢い良く両手をつき上半身を伸びがらせた。

思いも寄らない美寧の動きに対応出来ず、怜が背中から倒れこむ。

「わっ、」

驚きの声を上げた怜の唇に、美寧はぶつけるように自分の唇を押し付けた。





【第五話了】 第六話につづく。
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