耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[1]


忙しなく動く両足。それ動きに合わせて腰元で揺れる栗色の髪。
手は肩から下げたトートバッグの紐をギュッと握りしめる。

茜色に染まる夕焼け空。それに負けないくらい赤くなっている顔を、目深に被った帽子で隠して、美寧はうつむきながら歩いていた。

少しだけ散歩に出てくると言い残し、慌ただしく怜の家を出てきた。
どこに行くかなんて全然決めていない。

肩から下げたバッグの中には反射的に突っ込んだスケッチブックと色鉛筆が入っているけれど、今はそれを広げる気分になれそうもない。広げたところできっと一ミリも描けないだろう。

今はただ、爆発しそうな頭を落ち着かせるのでせいいっぱい。
自分がしでかしたことを考えると、湯気が出そうなほど熱い顔はいつまでも元に戻りそうになかった。


(や、やらかしちゃったよ~~~)

ここ最近、 “特別なキス”をしていないことをひそかに寂しいと思っていた美寧。
自分の手も触れることのない口の中を、怜に舌で撫でられるのはとても恥ずかしい。なのになぜか、同時に胸が甘く高鳴るのが不思議でしかたない。

怜のくちづけはいつでも優しく温かい。触れ合わせた唇からも舌先からも美寧のことを好きだという気持ちが流れ込んで来る。そんな怜のキスが美寧は好きだ。

それなのに、もう二週間以上その“特別なキス”をしていない。
その理由を尋ねると怜は『ミネを怖がらせたくない』と言った。

自分がいつ怜を怖がったのだろう。そんなこと一度だって思ったこともないのに———

そう思った時、怜が言った言葉にハッとした。

『あなたを泣かせたくはないんだ』

怜は前にキスした時に美寧が泣いたことをずっと気にしていたのだ。
その時のことはあのデートの時に謝ってくれたのに、自分はちゃんと彼に説明しなかった。『怖くて泣いたのではない』と。

だから一生懸命説明した。涙の理由を。怜は怖くないことを。本当はキスが好きなことを。

証明したかった。だから行動で示した。自分が言ったことが本当だということを。

唇を重ねるだけでもとても勇気が要った。けれどそれだけではダメだ。
自分の真意を伝えるためには、それだけでは———

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