耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
込み上げてくる想いを言葉に出来ずに、美寧は怜にぎゅっとしがみ付いた。

「いやだよ……」

小さく呟く。

「私はずっとれいちゃんといたい……」

「ミネ………」

「楽しい時だけじゃなくて、悲しい時だって……」

きゅっと下唇を噛んでから怜を見上げた。

「どんな時でもれいちゃんといたい。それが私の一番の『望み』だよ」

一瞬目を見張った怜が、美寧をそっと抱き寄せる。
さっきとはまったく違う柔らかな腕で。まるで“繊細なガラス細工”でも抱えているように。

香水をつけない怜の、甘く爽やかな香り。自分より少し高い体温。
その二つにすっぽりと包み込まれ、美寧はそっと瞳を閉じて甘えるように怜の胸に頬をすり寄せた。


***


少しの間黙って抱き合っていた二人だったが、それを破ったのは小さなクシャミだった。

「すみません、こんなところで……すっかり冷えてしまいましたね」

怜の言葉にここが玄関の三和土なのだと思い出す。
美寧の体は怜にすっぽりと包まれているから帰ってきた時よりも温かいくらいだ。けれど、足先が冷たくなっているのは事実だった。

「先にお風呂に入ってきてください」

「でも、」

夕飯の支度を手伝うと言おうした美寧に、怜は言う。

「夕飯はもう温めるだけなので大丈夫です。風邪を引いてはいけませんから、湯船でしっかり温まってきてください」

うっかり風邪を引いて熱を出したら、また怜に心配をかけてしまう。美寧は躊躇(とまど)いながらも頷いた。

そっと解かれた腕。
一歩離れると、すぅっと入り込んだ冷たい風に、ふるりと小さく体が震える。
それを見逃さなかった怜から「早く風呂に入ってください」と()かされた。

美寧は頷いて靴を脱ぎ、言われた通りに風呂へ向かう。
その後ろ姿を怜はじっと見つめていた。





【第六話 了】 第七話につづく。
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