耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー

パチパチと長い睫毛を(しばた)かせて怜を見上げる美寧に、怜は微苦笑を浮かべてから言った。

「神谷君です」

「……颯介くんに?」

「いつから名前で呼ぶように?」

「それは、……私の方が年上だからそう呼んでほしいって、言われて……」

「そうですか………では、さっき、何を言われたのですか?」

「さっき……」

「門の手前で立ち止まっていた時」

「それは………」

怜に訊かれ、颯介とのやり取りを思い返す。

彼は言った。
初恋は実らない。他に相応しい相手がいる。
と———

そんなこと、怜には言えない。言いたくない。

「———言えませんか?」

「っ、」

また頭の中を読んだような怜の台詞に美寧が息をのむと、じっと美寧を見つめていた怜が深く息をついた。

「彼に何を言われたのか分かりませんが、あなたにあんな顔をさせる人に譲る気はありません」

「………」

『あんな顔』とは、どんな顔なのだろう。
颯介と話していた時、自分は一体どんな顔をしていたのだろうか———

「俺の望みはあなたが笑っていることです」

「えっ?」

脈絡のない怜の台詞に美寧が目を丸くする。

「ミネが訊いたのでしょう?俺の『望み』」

「あっ、」

確かに訊いた。昼間の縁側で———

うっかり忘れていたことを思い出して、思わず美寧の顔が赤らんだ。

「俺の望みはあなたが笑っていること。だからあなたに悲しい顔をさせる人に、あなたを渡すことは出来ません」

怜は一体何を言っているのだろう。
悲しいとか楽しいとか関係なく、ずっと怜といたいのに。
『渡す』だなんて言わないでほしい。
たとえどんなに悲しい思いをしても、自分がいたいのは怜のそば(ここ)なのに———

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