耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[1]


「美寧。カプチーノとブレンド、頼む」

「はい!ソファーのお客様ですね!」

カウンターの上に置かれたカップをトレーに乗せ、慎重な足取りで店の通路を歩く。
日曜の夕方。この時間にしては珍しくお客の波の絶えないラプワールで、美寧は忙しく動き回っていた。


本来なら日曜はいつも休みを貰っている美寧。怜が家に居ることが多い日曜日と、ラプワールが店休日の水曜日が美寧の“公休日”になっている。

その“公休日”である日曜日に、こうしてアルバイトに励んでいるのは、もう一人のアルバイト神谷颯介(かみやそうすけ)が所用で休んでいるからだ。

マスターは「一人でも大丈夫だ」と言ってくれたのだが、美寧は自分からアルバイトに入ると進み出た。いつもお世話になってばかりのマスターの役に立てるなら、これくらいお安い御用なのである。


「悪いな、美寧。いつもならもう上がりの時間なんだが……」

店内の時計に視線を遣ったマスターが申し訳なさそうに言った。

「私なら全然大丈夫ですよ?」

つられて見上げた時計の短い針は、ずいぶん【5】に近づいている。
今日は日曜日だ。ということはもしかしたら……

美寧の頭に一人の顔が過った時、入り口のカウベルがカランと音を立てた。

「いらっしゃいま、―――れいちゃん!」

入ってきたのは怜だった。

「こんにちは」

「おお、やっぱり今日も来たな」

美寧に柔らかく微笑んだ怜は、カウンターの中に向かって会釈をする。
マスターは彼が来るのを分かっていたような口ぶりに、美寧は首を傾げる。するとすぐにマスターが美寧の疑問を解決した。

「最近土曜日は大抵迎えがあるだろう?もうこの時間は大分暗いしな」

ここのところずっと、週末には怜が美寧を迎えに来ていたことに、マスターはちゃんと気付いていたのだ。

「今日は少し上がるのが遅くなったが、きっと迎えが来るだろうとつい甘えてしまったな。悪かったな、美寧」

「い、いえ………」

十一月も半ばを過ぎ、日暮れもずいぶん早くなった。
最近は五時には暗くなってしまうので、マスターは美寧を四時前には帰らせるようにしていた。
いくら美寧が『近いから大丈夫です』と言ってもマスターは譲らない。『暗い中お前を歩かせるくらいなら、もう店を閉める』と意味不明の脅しを掛けられ、美寧は仕方なく早く仕事を上がるようにしていた。
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