耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
「ごめんね、れいちゃん。もう少しで終わるから」

「俺のことは気にしないでください。それよりも、『ブレンドホット』、お願いします。店員さん」

柔らかな瞳でそう言われ、美寧はゆるみそうになる口元をきゅっと引き結ぶと、カウンターの中に向かって「ブレンドホットです」と注文を通す。既に準備に入っていたマスターが背を向けたまま「おう」と返ってきた。

少し前まで、店内のテーブル席は営業マン風の男性、買い物帰りの荷物を抱えた若い女性とその子どもで埋まっていた。今はソファー席には、さっきカプチーノとブレンドを持って行ったご婦人二人がコーヒーの香りと会話を楽しんでいる。

客足の波はなぜか一気に来て一気に引いていく。
テーブル席の二組のお客はほとんど間を置かずに帰り、いつものようにカウンターで楽しそうにしていた常連の柴田と田中も、怜が来る少し前に帰って行った。


コーヒーが運ばれてくるまでの間、店内を一瞬振り返った怜にマスターが振り返ることなく言う。

「神谷なら今日はいないぞ」

背を向けたままなのに、まるでこちらの様子が見えているような口調だ。
内心では驚いた怜だけど、それをおくびにも出さず「そうですか」と返した。

神谷が休みなことは怜も知っている。美寧が日曜日にアルバイトに入ると言った時、その理由も併せて聞いていた。

「れいちゃんが来るときに颯介くんがいないって、なんかちょっと不思議な感じ」

美寧は不思議な違和感を感じてしまう。
最近は週末に怜がラプワールに顔を出す時は必ず颯介がいた。

働き始めて一か月ほどなのに、ラプワールでの仕事をほぼ完ぺきに覚えてしまった彼は、もうすっかりこの店の一員。子犬の様に人懐っこい笑顔で、常連客たちもすぐに彼を可愛がるようになった。最近女性客が多いのは、神谷効果かもしれない。
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