耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[1]


少し先も見えないくらいに立ち込めた霧の中、息を切らしながら必死に走っている。

白樺が立ち並ぶ薄暗い林道
小石まじりの土を蹴る足音
はぁはぁと荒い息遣い

もっと速くと思えば思うほど、ぬかるみに取られたように足が回らなくなる。
それでもなお懸命に両足を動かす。必死に走り続ける。

(もっと、……もっとはやくっ、追い付かれちゃうっ………)

息は上がり呼吸が苦しくて堪らない。走り続けた足は鉛のように重く、思うように持ち上がらない。
時折後ろを振り返り振り返りしながら走り続けるが、後ろから追ってくる“あれ”の姿は見えない。けれど、確かにその気配はあるのだ。

『もう大丈夫』と足を止めたらきっと、自分は “あれ”に捕まってしまうだろう。
恐ろしさに今にも立ち竦みそうになる体を無理やりにでも動かしながら、美寧は必死に“あれ”から逃げていた。

気配はどんどん近付いて来る。
振り向く余裕すらなくなって、ひたすら前を目指して走っていく。

捕まりたくない。捕まるわけにはいかない。
捕まったら最後、もう戻れない。大好きなあの人のところへは———

立ち込めた霧の向こうに、一点だけ輝く光が見えた。白樺の樹々がそこだけぼんやりと白く光っている。

(あそこまで行けば………)

そう思った瞬間、足がもつれた。「あ、」と思った時には遅かった。

「きゃあぁぁっ」

勢いよく前身から滑り込むように転んだ。美寧の体が土と小石が剥き出しの地面の上に叩き付けられる。

急いで立ち上がろうとしたが、転んだ衝撃でまだ手足に力が入らない。

(ダメっ、捕まっちゃう……!)

「いやっ、誰か!……たすけて、れ———」



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