耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
[1]


ソファーとローテーブルの間に座っている美寧は、せっせとその手を動かしていた。
縁側からは時折、北風が雨戸を揺するカタカタという音が聞こえている。夜になって風が強くなってきたようだ。
美寧は動かしていた手を止め、ふと部屋の時計を見上げた。

(れいちゃん、今日もまだ帰って来れないのかなぁ………)

時計の針は九時を過ぎているが、まだ怜は帰ってこない。
肌を刺すような冷たい風が吹きつける夜道を、歩いて帰ってこなければならない彼が心配になってしまう。

十二月に入りますます寒くなってきた。週末は強い寒気が到来し、山間部では初雪が降るかもしれないとニュースで言っていた。

とはいえ、今美寧がいるのはホットカーペットの上。暖房も付いているからまったく寒くない。

着ている部屋着もすっかり冬仕様。ワンピースタイプのもこもこ(・・・・)ルームウェアの上から、愛用のもこもこ(・・・・)パーカーを羽織り、足元はもこもこ(・・・・)靴下。
更にフリース素材の膝かけも掛けているので、遠くから見たらまるで毛布の中に埋もれているような姿だ。
どれも冷え性で寒がりな美寧の為に、怜が用意してくれたものだった。


(れいちゃん、風邪ひいたりしないといいんだけど………)

ここしばらく毎日帰りの遅い怜のことが心配でたまらない。
帰りが遅いだけでなく朝も早くから大学に行く上、土日も休日返上だったのだ。

それなのに、怜は朝食の準備も夕食の準備も欠かさない。
美寧が努めて早起きをしても、怜に勝てた試しがない。どうかしたら美寧が寝る時に帰ってきていないこともあるのに。

いくら怜でも体を壊してもおかしくない。そう美寧が心配にするのも(うなず)ける。
それだから美寧は、前にも増して少しでも怜の役に立てるよう、自分が出来得ることすべてをやる気でいた。

洗濯物の片付けも夕飯に使った食器の片付けも済んでいる。
あれこれ探してみても自分が出来ることはそれくらいしか無くて、美寧はそわそわとしながらも、また作業の続きを再開した。

そんな矢先、ローテーブルの上のスマホが「ポコン」と音を立てた。

「あっ!」

急くような気持ちになりながら、指先で画面に触れる。

【今から帰ります】

怜からのメッセージだった。

(れいちゃん、帰って来れるんだ!)

寒い夜道を帰ってくる怜。きっと冷え切っているだろう。
すぐに温まれるよう、お風呂を沸かし直しておいた方がいいかもしれない。

「あっ、シチューも温めておかなきゃ!」

立ち上がっていそいそとキッチンに向かおうとしたが、手にしているものに気が付いて、また「あっ!」と声を上げた。

「ちゃんと片づけておかなきゃ!」

紙袋に入ったそれらを、美寧は自分の部屋に急いで持って行った。


< 213 / 427 >

この作品をシェア

pagetop