耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー

公園に入ってしばらくしてから、後ろに、自分の足音(もの)と同じリズムの音がついて来るのに気がついた。

最初は気のせいかと思った。
公園を通る人が後ろから美寧を抜いていくのだろう。傘が邪魔で追い抜きにくいのかと、出来る限り歩道の端に寄り、傘も斜めにしてみた。
が、足音は一向にその気配を見せない。

それどころか、美寧が速度を上げると同じように速くなる。更に上げてもそれは変わらない。

美寧は、傘とは逆側に提げた買い物袋の紐を、ギュッと強く握りしめた。


公園の入り口は戻った方が近い。
ラプワールと藤波家を繋ぐ公園の遊歩道を、まだ三分の一も行っていない。ラプワールに戻った方が早いだろう。

けれど、後ろから聞こえる足音に、どうしても振り向くことも方向転換することも出来なかった。

差した傘に顔を隠して振り向いてみると、男性物の革靴とチラリと見えたスーツのズボン。雨の跳ね返りのせいか裾が濡れている。

ぞくりと背中に悪寒が走った。

勘違いかもしれない。商店街で噂になっていた不審者は、兄が遣わせた者だったはず———。
何度もそう考えるけれど、その間にも少しずつ距離を詰められている気がする。

(勘違いなら勘違いでもかまわない!)

美寧は意を決し、地面を蹴って駆け出した。


家を目指して必死に走る。
日頃めったに走るということをしないから、すぐ息が上がってしまう。けれど、後ろを振り向かずとにかく走る。
水溜まりがパシャンと大きな音を立てた。

(振り向いちゃダメ)
(足を止めちゃダメ)
(後ろに気を取られちゃダメ)
(前だけ見て———もっと速く!)

いつか見た夢の続きなら、早く覚めて。
そう、意識の端で乞う。

もつれそうになる足を必死に動かし、公園を抜けるまであと少し———というところで後ろから腕を強く引かれた。


美寧の手から離れた傘が、地面を転がった———





【第十一話 了】 第十二話につづく。
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