耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
父が目を見開いた。そして、何か言おうと口を開こうとした。けれど美寧の方が早かった。

「私、ずっとお父さまのお役に立ちたかったっ!私が娘で良かった、とお父さまに思って欲しかった……でも私に出来ることなんてなにもなくて………。せめてお父さまが決めた許婚に嫁げばいいと思っていたけど………それも出来ない。れいちゃん以外の男性(ひと)のところに行くなんて出来ません………」

膝の上で重ねている怜の手を、もう一度ぎゅっと握る。

「れいちゃんと一緒にいたい———彼と一緒にいさせて下さいっ!」

「お願いします!」と言い、もう一度深く頭を下げた美寧。
シンと静まった居間。父は何も言わない。それでも美寧は頭を下げ続けた。

一分ほど重苦しい沈黙が続いた。それを破ったのは父の重い溜め息だった。
その音に、美寧の瞳がじわりと滲む。

やっぱり父は自分のことを許してはくれないのだ。
沢山迷惑をかけた上に、好きな人と一緒にいたいという美寧の我がままを、父は許さない。

だけど、どんなに反対されても怜と離れ離れになるなんて出来ない。
それくらいならいっそ———

美寧は顔を上げて父をまっすぐに見た。

「お父さまのご了承がなくても、私はずっとれいちゃんと一緒にいます。———私のことは、もう娘と思わないで、」

「美寧!」

聡臣が荒げた声が美寧の言葉を遮る。
怜も握る手に力を込めてくるが、美寧はそのどちらに視線を向けず、ただまっすぐに父だけを見つめた。

美寧の固い決意のこもった瞳をしばらく見ていた父は、良く通る低い声ではっきりと言った。

「———無理だな」

父が吐き出した言葉に、美寧は顔を歪めた。





【第十五話 了】 第十六話につづく。
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