耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
さっき少しだけ顔を上げた時に見たその女性は、美寧よりも少し年上、怜よりは年下に見えた。髪を頭の後ろで一つに束ねた濃い栗色の髪が、飼い犬のしっぽとよく似ている。


しばらくそうして背中をさすっていると、怜が走って戻ってきた。手にはペットボトルを大小三本持っている。

「お待たせしました。この中で飲めそうなものはありますか?」

女性の前にしゃがんだ怜が、手に持っているものを見せた。
五百ミリリットルのペットボトルは、炭酸水とスポーツドリンク。小さい方はホットレモンのようだ。

少し躊躇した様子の女性に、怜は「遠慮はいりません。飲めそうなものを是非」と勧めた。
怜に促された女性が手に取ったのは、炭酸水だった。


「ありがとうございます……おかげで少し楽になりました」

炭酸水を飲んだ女性は、しばらくするとそう言った。さっきよりもいくらかマシなのだろう。眉間の皺が浅くなっている。

「いいえ、お役に立てたならそれで。本当に大丈夫ですか?病院へ行かれます?」

「もう大丈夫です……ちょっと気持ちが悪くなってしまっただけなので……」

「そうですか……でも、大事にしてくださいね?ご自分だけのお体ではないのでしょう?」

「「え?」」

女性と美寧の声が重なった。

「どういうこと?れいちゃん」

美寧が訊ねると、怜は言った。

「カバンにマタニティマークがついていたのが見えましたので」

「あ、」

女性のショルダーバッグを見ると、ピンク色のハートにお母さんと赤ちゃんが描かれたキーホルダーがぶら下がっていた。

「お母さんなんですね!それならほんとにお大事に、です」

「ありがとうございます……ごめんなさい、ご迷惑お掛けしてしまって……」

申し訳なさそうに彼女が言う。

「いいえ、ちょうど通りかかれて良かったです。一番の功労者は、この子ですね」

怜の視線の先には、お座りしている犬。その視線は飼い主ばかりをじっと見つめている。

「うん、ほんと!ご主人様を助けるために、一生懸命私たちを呼んでたみたい」

「そうですね———ありがと、アンジュ」

女性はそう言うと、犬の頭を撫でた。
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