耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
怜に「美味しい」と言ってもらえて嬉しい美寧は、上機嫌のまま、今度は秋刀魚の塩焼きに箸を入れる。
今が旬の脂の乗った秋刀魚は、新鮮さもさることながら、焼き加減も絶妙。醤油とかぼす(・・・)を垂らした大根おろしを、箸で解した身の上に乗せてパクリと口に入れた。

以前より量を食べれるようになってきたとはいえ、一人で一尾まるごと食べてしまうと、他のおかずが全部胃に収まらなくなる。その為、美寧の分はいつも半分。

怜の分は一尾丸ごと出されているので、美寧の残り半分はどうしたのか気になって怜に訊いてみたことがあった。

『残りは竜田揚げにして、明日のお弁当に入れます』

そう返ってきた。
すでに調味料に漬け込んである、とも。

(今日の残りは一体何になるんだろう)

明日もアルバイトがある美寧は、ラプワールでの賄いがあるのでお弁当はいらない。けれど怜のお弁当作りを手伝うので、いったいどんな料理に変身するのか、密かに楽しみにしているのだ。

(アルバイトと言えば……)

「あのね、れいちゃん」

「何ですか?ミネ」

「今日、ラプワールに新しいアルバイトさんが来たんだよ」

「そうなのですか………?」

ラプワールは商店街の端にある小さな喫茶店。
以前はマスターが一人で切り盛りしていた。だから『人手』という観点からはアルバイトは必要ない。

そんな中、家事も仕事もしたことのない“猫の手”にも満たない美寧を雇ってくれたのは、ひとえにマスターの厚意だろう。

それなのに、『もう一人』アルバイトが入ったという。


怜は右手に持つ味噌汁椀をテーブルに戻すと、「新しいアルバイト、ですか?」と訊ねた。

「うん、そうなの。それがね……」

続いた美寧の報告に、怜は涼やかな瞳を軽く見張った。


< 78 / 427 >

この作品をシェア

pagetop