耽溺愛2-クールな准教授と暮らしていますー
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ラプワールの常連さん達や奥さんとの会話の途中、背中で鳴ったドアカウベルの音に美寧は反応した。

「いらっしゃいま、」

振り向きながらそう口にした美寧は、最後の「せ」を言う前に動きを止めた。
入ってきたのは、少し前に見たことのある顔———

「あっ!君、あの時の!!」

目を丸くして声を上げた()の後ろで、カランと音を立ててドアが閉まる。

「あなたは……神谷、さん?」

「君もここでバイトしてるの!?」

「え、……君《《も》》?」

「なんだ二人とも。知り合いだったのか。それなら話は早いな」

神谷の台詞に固まった美寧が背にしたカウンターの中から、マスターの驚いたような声が聞こえてきた。

「マスター、それってどういう、」
「———はい。と言っても、先週初めて会っただけなんですけど」

美寧の言葉は、同時に発した神谷の声でかき消されてしまう。

「大学で彼女が迷っていたところに行き会ったんです。それで僕が理工学部まで案内して」

「ほう。大学……理工学部……なるほどな」

マスターがあごで短く切り揃えられたひげを撫でながら、一人納得したように頷いている。

それもそうだろう。マスターは美寧が誰と暮らしているかも、その相手の勤め先も知っている。
きっと瞬時に、神谷の通う大学で美寧が迷子になった経緯(いきさつ)を理解したに違いない。

「でもびっくりしました。彼女がここでバイトしてるって僕知らなくて……えっと、」

マスターと話していた神谷が美寧の方を向いた。大きな瞳が何かを伺うように美寧のことを見る。

奥二重の丸い瞳。色白でほっそりとした顔。きっと一般的に“塩顔”と呼ばれる容姿をしている。

けれど、少し少年っぽさを残した顔つきと子犬のような丸く大きな瞳の男性にしては可愛らしい印象の顔立ちは、“塩”というよりは”砂糖”と言った方がしっくりくる。

そんな“砂糖顔”の神谷に、何かを訊きたそうにじっと見つめられ、美寧は小首を傾げた。
けれどすぐにハッと気が付いた。

「ごめんなさい!私、自分の名前言ってなかったですね!杵島(きじま)美寧です。それと、この前は大変お世話になりました」

しっかりと頭を下げると、神谷は「美寧ちゃん、かぁ……」と何やら感慨深そうに呟いた。

神谷は美寧に「これからよろしくね」と言うと、

「今日からアルバイトに入ります、神谷颯介(かみや そうすけ)です。よろしくお願いします」

そう言って、その場にいる全員——マスター、カウンターに座る常連と奥さん、そして美寧——に向かって丁寧に頭を下げた。



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