偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「お前は今日、凄く頑張った。
だから、これくらいのご褒美はあっていいはずだ」

「はぁ……」

彼は今日の茶会の、出席者だったんだろうか。
けれど私はずっと裏にいて、客とは会っていない。

「でも、気が引けるっていうならこれ、もらっておくな」

車の縁に手をかけ、彼の顔が近づいてくる。
ちゅっ、と唇が私の唇に触れて離れた。

「たぶん熱が出てるよ、お前。
帰ってゆっくり休め。
……運転手さん、出してください」

彼がドアを閉め、タクシーは走りだす。

え、いまのキス、なのかな……?

彼の言うとおり、熱があるみたいであたまがふわふわする。
おかげで少しも、現実感がない。
さらに晩は寝込み、目が覚めたときには彼のことは、眼鏡をかけていたことと香水の匂いしか覚えていなかった。
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