偽りの花婿は花嫁に真の愛を誓う
「普通ですよ、これくらい」

「いや、凄いって。
俺はいい嫁さんもらったな」

またシチューを一口食べた、彼の目尻が眼鏡の奥で下がる。

「……喜んでもらえたならよかったです」

顔が熱くなって、気づかれないように俯いた。

――結婚して、夕食を作って旦那様の帰りを待つ。

それは、私の憧れだった。
だから今日、夕食を作ったといってもいい。
でも期待なんてしていなかった。
ただ、文句さえ言わずに食べてくれればいいと思っていた。
なのに、喜んでくれるなんて。

夕ごはんは穏やかに進んでいく。

「今日はなにをしていたんだ?」

「今日は買い物と、あとは映画を観ていました」

なんとなく、職探しをしていたことは隠した。
反対される気がするから。

「そうか。
李亜はどんな映画が好きなんだ?
今度、オススメのを一緒に観よう」

嬉しそうに笑って食べている御津川氏を見ていたら、普通にごはんを食べているだけなのに心がほっこりする。
この人との結婚生活も悪くないのかもしれない、なんて考えていた。
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