オフィスラブはじまってました
 困ったな。
 まだアパートまで距離がある。

 沈黙したまま歩くのは大変だぞ、と思ったひなとは、慌ててなにかないかと話題を探してみた。

 あっ、そうだっ、と思い出し、急いでひなとは口を開く。

「そういえば、この間からずっと気になってる名前があるんですよ。
 何処かで聞いた名前だなと思って」

 えっ、とちょっと強張った顔を柚月がした。

 なんでだろう、と思いながらも、ひなとは言った。

「アグリッパって誰でしたっけ?」

「……学校の美術室の前か後ろに並んでて、深夜になると勝手に動くやつだろ」

 ああ、あのなんかゴツい顔の白い胸像、とひなとは苦笑いする。

「職場で、ふいに、アグリッパって名前が頭に浮かんだんですよ。
 そんなときありませんか?」

「ない」
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