オフィスラブはじまってました




 畑の前を通り、民家が二軒ある先に、その公園はあった。

 確か、この木……
と道沿いの一番大きな木を見上げたひなとは、ひっ、と息を呑む。

 太めの枝に白い人が乗っていたからだ。

 霊っ? と思ったが、それは短く太い枝にコアラのようにしがみつき、月を見上げている白衣の人だった。

 よく見れば色素の薄い感じの瞳と髪をした綺麗な男の人だったのだが。

 そんなこと印象に残らないくらい今の状態が怖い。

 ゆっくりと逃げよう……。

 そうひなとは思い、そうっと後ずさろうとしたが、そのとき、足許で鳴き声がして、なにかけむくじゃらなものが足に身体をこすりつけてきた。

 ひっ、と一瞬思ったが、猫だった。

 可愛いアメリカンショートヘアで、赤い首輪をつけている。

 飼い猫が夜のお散歩に出ているようだ。
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