翠玉の監察医 日出づる国
「あら、いいわね。でも残念!私はすでに先約があるの」

碧子がかばんを手にしてそう言う。碧子は大学時代の友人と今日は会うと蘭に言っていた。なので今日は久々に蘭は一人で夕食を食べる。

「蘭と圭介はどうする?」

マルティンに訊かれ、蘭は「申し訳ありません。まだ仕事が終わりそうにないので……」と頭を下げる。圭介も「俺も神楽さんと同じ理由です」と言った。

「日本人ってやっぱり仕事人間だよな〜」

アーサーがそう言い、ゼルダとマルティンは「無理しないでね。お疲れ様」と言いながら部屋を出て行く。碧子も「戸締りだけお願いね」と言い出て行った。蘭はその後ろ姿を見届けた後、すぐにまた仕事に取り掛かる。

書類を全て仕上げた頃には、もう六時半を過ぎていた。辺りは暗くなっている。

「深森さん、帰れそうですか?」

蘭が訊ねると「大丈夫です!」と言い圭介はかばんを手にする。蘭は窓の鍵などを閉め、「帰りましょう」と言いながら廊下を歩く。その時、「あの!」と圭介に呼び止められた。
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