誰よりも不遜で、臆病な君に。
バイロンはクスリと笑う。

「お前……寂しいのだろう」

ケネスは嫌そうな顔で応じた。

「殿下は、そういう意地の悪いところは変わりませんね」

「私はお前のような義兄弟ができるのはうれしいぞ。アイザックは素直すぎるし、コンラッドは子供過ぎる。実弟たちは手ごたえが無いからな」

「まあいいです。俺も楽しみですよ。腹の黒そうな年上の義弟ができるのは」

そう言うと、ケネスはクロエの元へと歩き出した。

「お兄様!」

ぱっと顔を晴れ渡らせ、クロエはケネスの腕に抱き着く。
自分にはされない甘え方を、存分に見せつけてくるケネスに、バイロンは苦虫を噛み潰す。

「……あいつめ」

全く性格の悪い義兄ができたものだ。
そう思いながら、彼らの動きを目で追う。
ケネスがダンスに誘い、クロエが応じて踊り出した。途中クロエと目が合うと、彼女はバイロンに向けて、花が咲き誇るような笑顔を見せた。

今に見ていろ、とバイロンは思う。
今の時点で彼女に一番の安心感を与えられる男がケネスだとしても、今後もずっとそうとは限らない。
これから長い年月を共に過ごすのは、バイロンの方だ。
彼女の一番が取って代わるときなど、すぐにやってくるはずだ。

やがて、踊り終えたクロエは、バイロンの方へとむかってくる。

「踊ろうか、クロエ」

バイロンは微笑み、手を差し出す。
誰より不遜で臆病な、彼の一番愛しい人に。
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