可愛くないから、キミがいい【完】
嬉しそうに騒いでいるふたりの横でリップを塗り直して、ふと、廊下の方を見る。
「あ、」
そうしたら、ついこの前、私のことを振った相手が眠たそうに歩いているのを、たまたま見つけてしまった。
朝から一気に憂鬱になる。
振られて、プライドを傷つけられたことを、何度も思い出してしまう。
まわりには私が振ったことにしている。相手も、それについては了承していた。
無口であんまり笑わない、ちょっとつり目な男の子だった。顔が本当にタイプだったし、落ち着いているところも好きだった。
それに、なによりキスもそれ以上の行為も上手だった。
顔なんて一生見たくないはずなのに、勝手に目が見つけてしまう。
こんなの、ちっとも私らしくない。
「みゆ?」
マユの声に、廊下に向けていた視線を急いで戻す。
彼のことは、もう全く気にしていないってことになっているし、マユたちは私が振ったと思っているのだから、未練がましくみえるような行動は禁物だ。
誤魔化すように足をジタバタさせて、マユの肩にもたれかかる。
「恋愛したいなあ、彼氏ほしいなあ」
「みゆなんて、可愛いんだから遊び放題じゃん」
「そんなことありませーん。はー、今日いい人いるといいな。マユとかミーナとタイプの人かぶりませんように。かぶったら女の子の戦いになっちゃうよ」
一番かっこいい男の子は私に譲ってね?
そういう、釘を刺したつもりだ。
マユとミーナは、「みゆには負けちゃうし」と当たり前のことを言いながら小突いてきた。
そうだよ。
私より可愛くない女の子には何にも譲りたくない。