真夜中のピアノ
…あ、誰か来た

ああ、いつものお兄さんだ

私に触れて!そして、奏でて!

お兄さんはためらいがちに私の前に座り

忙しそうに行き交う、人々を横目でチラチラと見ながら

そっと、弾き始める

ああ、ドビュッシー先生の「月の光」

お兄さんは毎朝、私に触れ、ちょっとずつ練習を重ねてきた

まだちょっとたどたどしいけど

大分、上手くなってきたね

このお兄さん、お巡りさんなんだって

マッチョないかつい感じだけど、鍵盤に触れるタッチは、とても優しい

お兄さんはひとしきり練習したあと、「まだまだだな」と苦笑いして、人混みの中に消えていった

お兄さん、ありがとう、お仕事頑張ってね

明日も、きっと来てね
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